直筆商の哀しみ (ゼイディー・スミス)

 直筆商の哀しみ (新潮クレスト・ブックス)  ★★★★☆
主人公のアレックス・リ・タンデムはユダヤ人の母と中国人の父との間に生まれた英国人。
12歳のアレックスは、第1章でいきなり大好きだった父を亡くす。
それ以降の物語は、成人したアレックスが、有名人のサインを売買し、
そのあがりで暮らす直筆商(オートグラフマン)をしている話。
アレックスはシンボルにしか頼れない。
仕事は、レアなサインを売ったり買ったりする仕事で、
そこにあるのは、そのサインをした有名人の人と成りより、サインとしての価値があるか売れるどうか。
友人の心の動きをジェスチャーから読み取り(「国際的にもっとも通用するジェスチャーである〜」)、
彼女には映画の台詞を引用してしか、気持ちを伝えられない。
そうじゃなかったら、酒や薬に逃げる。
アレックスが憧れるのは往年の美人女優キティー・アレクサンダー。
彼女のサインは「幻のサイン」ともいわれる、超レアもの。
そのキティのサインを入手したことからはじまる、激動の9日間。
分厚い本なのに、9日間の出来事。
シンボルの中に生きるアレックスを見てると、
はじめはなんて適当な付き合い方をしてる人だろうと思う。
だんだん、そのこだわりが狂気のようにも思うようになる。
ちょっと最後の最後に、なんでそんなにシンボルに頼っているのかが分かって、ほろり。
デビュー作である前作、「ホワイト・ティース」も、よかった。
なんかこの人の本は、のんびりのほほんとした文体なのに、ずんとくるというか。
両方に共通していえるのは、英国という、英国人絶対主義なくせに
移民の多いという特殊な国の中で、右往左往しながらアイデンティティを探している人たちが出てくること。
あまりメジャーな本や映画からは得られない、英国の裏側面。
それにしても、父と息子の物語って、女の私には神秘。
なんかがあるらしいけど、分からんけど、色々あるのね、って。
分からないといいつつ、いつも感動させられる。
花男」とかね、「ビッグ・フィッシュ」や「がんばれ、リアム [DVD]」とかね…
もっとあるけど、いざ思い出そうとすると出てこないけど…